研究内容

    口腔顎顔面領域の健康回復のために用いられる歯科生体材料について,生物学的な観点からの研究を基軸と位置づけています.とくに,社会のニーズに応えるべく,細胞培養を応用した細胞毒性試験法によって歯科生体材料の生物学的評価を行ってきました.
  現在,それらの研究テーマを中心に生体適合性に優れた歯科生体材料の創製や分子生物学的手法による評価など新しい試みも活発に行い,海外留学への挑戦あるいは国際学会における発表の機会を通して,国際舞台の場で活躍出来る人材の育成に取り組んでいます.また,共に研究し学ぶ,開かれた研究室であり続けることを心がけています.意欲ある若人の志願を大歓迎します.


1.歯科生体材料の創製に関する研究
   1)ティッシュエンジニアリング手法による展開
   2)合成材料による展開

2.In vitroにおける歯科生体材料の生物学的評価法の確立
1)ES細胞を活用した発生毒性に関する研究
2)分子生物学的方法による細胞反応の解明
3)歯科生体材料の内分泌攪乱作用に関する研究
4)ストレス蛋白質合成などの初期細胞反応の解明
5)歯科生体材料による染色体異常に関する研究

3.歯科医療従事者の職業性アレルギーに関する疫学的研究

4.歯科用器械の生体に及ぼす影響に関する研究

5.歯科理工学教育の改善に関する研究

6. 最近の海外留学・海外発表

歯科生体材料による染色体異常に関する研究

Key Word@遺伝毒性
英語のgenotoxicityのことである。genotoxicityをそのまま 日本語にすれば、「遺伝子毒性」になるはずだが 遺伝毒性と言われることが多い。ある学会の演題の中に 遺伝子毒性という言葉を目にしたこともある。変異原性、遺伝毒性、染色体異常 などの言葉の定義は日本語ではあいまいであるが、遺伝毒性試験とは、DNAと、DNA が凝集した形である染色体、およびDNA上にある遺伝子に対する障害を 調べるための試験だと言ってもよいだろう。
Key WordA染色体異常試験
遺伝毒性試験の中で重要な試験の1つである。本研究では染色体の構造異常を調べている。
様々なタイプの染色体異常

写真左:金属水銀の抽出液によって誘発された染色体異常
○で囲まれた部分は切断
矢印で示された部分は交換

写真右:塩化水銀によって誘発された染色体異常
矢印は二動原体染色体
Key WordB動的抽出
従来の細胞毒性および遺伝毒性試験では、金属化合物が用いられてきたが、
本研究では純金属や合金のディスクの抽出液を用いた。
金属材料から溶出したイオンは、溶出量、イオンの価数、イオンの
存在様式などの点で、金属化合物と異なるためである。
純金属の抽出液(Hg、Ni、Co、Cr、Ti、Cu、Ag)および
従来型、高銅型のアマルガム合金の抽出液を調べた結果、次のことがわかった。
  1. Hg:29.81-69.81μM Ag:150μM Cu:700-900μMで染色体異常が誘発された。
    とくにHg:69.81μM、Ag:150μM、Cu:900μM の濃度において染色体異常頻度は
    50%以上であった。
  2. Cu:3.69μM、Ag:1.96μM、Hg:5.15μM を含む従来型アマルガムの抽出液は
    Cu:14.63μM、Ag:2.65μM、Hg:5.88μM を含む高銅型アマルガムの抽出液 よりも、
    より多くの染色体異常を誘発した。
  3. Cu:29.26μM、Ag:5.31μM、Hg:11.76μM を含む高銅型アマルガムの抽出液
    によって誘発された染色体異常の頻度は50%を超えた。
    Cu、Ag、Hgの抽出液が単独で50%以上の染色体異常を誘発した濃度(Hg:69.81
    μM、Ag:150μM、Cu:900μM )と比較すると、高銅型アマルガムの抽出液中の
    Cu、Ag、Hg濃度の方が少なかった。
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歯科生体材料の内分泌攪乱作用に関する研究

歯科用高分子材料の原料の1つであるBisphenol-A(BPA)の内分泌撹乱作用が疑われている.一般的に化学物質の生物学的影響は,複雑な過程を経ると考えられている.BPAについての培養細胞を用いたエストロゲン様活性報告に比較して,生物反応の種々の局面で重要な役割を担っているとされるアポトーシス(細胞死)の面からの評価は未だ数少ない.本研究はその点に着目し,BPAの生物学的影響について,アポトーシスの誘導とエストロゲン様活性という異なった径路からの影響を分析し,BPAのin vitroにおける生物学的評価を行った.

BPAは細胞膜変化の測定試験において3日目以降, 1×10-8M〜1×10-5M, DNA断片化の測定試験において6日目に1×10-11M〜1×10-5M, Caspase-3およびCaspase-6の活性測定試験では3日目以降, 1×10-8M〜1×10-5Mでそれぞれアポトーシスの誘導が認められた.

そして1×10-7M〜1×10-5 Mにおいてエストロゲン様活性も認められることを明らかにした. また, 細胞膜変化の測定試験において3日目以降, 比較用として用いた17beta-estradiol (E2)では1×10-12M〜1×10-6M, methyl methacrylate (MMA)の1×10-8M〜1×10-4M, DNA断片化の測定試験において6日目にE2の1×10-12M〜1×10-6M, MMAの1×10-9M〜1×10-4M, Caspase-3およびCaspase-6の活性測定試験では3日目以降E2の1×10-11M〜1×10-6M, MMAに関しては3日目にCaspase-3の1×10-14M〜1×10-4Mで活性は増加しなかったが, 6日目に1×10-10M〜1×10-4Mで, Caspase-6の3日目, 6日目ともに1×10-9M〜1×10-4Mで活性が増加しアポトーシスの誘導が認められた. そして, E2の1×10-13M〜1×10-7 Mで3日目以降エストロゲン様活性も認められ, MMAでは3日目,6日目ともに全くエストロゲン様活性が認められなかったことを明らかにした.


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最近の海外留学・海外発表

(秋山)2002年4月1日〜2003年2月25日 米国 University of Masachusetts Medical School
Center for Tissue Engineering に留学