臨床研究

 歯科領域においてもME機器が導入され,これまでに膨大な生体計測が行われてきた。 しかしその結果の蓄積がなされなかったからか,計量的な臨床術式がいまだ確立していない。 これまで,研究ごとに,患者から得られたデータを少数の被験者から得たデータと対比して, 異常と正常を論じてきた。一般に広く容認されている”普遍的な基準範囲” は歯科界に非常に少ない。われわれは,顎機能検査における正常値または正常範囲を設定して臨床の場における活用を目的とし研究を進めてきた。
 さらに今後は,臨床の場における診療指針を作成していくためにも臨床研究が重要な位置づけになってくると考えられる。治療や予防に関するガイドライン作成にあたり,その基礎資料と なるのは科学的に実施された臨床研究である。
 補綴装置が当初の設計通りの機能をいつまで発揮するのか,耐用年数はどれくらいかについて, われわれは把握していない。1998年古市らは,装着効果の確かさと順調な経過が高く評価されているテレスコープ義歯の支台歯について,その喪失までの時間,すなわち残存時間の解析を行い, 支台歯の喪失という義歯の運命を左右する重大なトラブルに注目して,そのリスクファクターに 関して検討した(古市憲史,田中昌博,川添堯彬.テレスコープ義歯の支台歯残存率に関する解析  日本補綴歯科学会雑誌 42:74−83,1998)。
 臨床研究を行うにあたり,観察・測定する項目の中で効果を検証する評価項目, すなわちエンドポイントを決定する必要がある。われわれ(今井敦子.咀嚼機能評価のための 米飯咀嚼に関する研究.日本補綴歯科学会雑誌 42:147−156,1998)は, 補綴咬合治療によって咀嚼機能が回復,向上が図られたか否かを評価するうえで,米飯を咀嚼で きることがエンドポイントになるものと考え,舌そのものの動態や, 舌と下顎運動ならびに咀嚼筋筋活動との協調様相を観察することにより, 健常者における米飯咀嚼機能の把握を試みた。


 
 

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