骨代謝2 : 骨形成と骨吸収のバランス

大阪歯科大学生化学講座
池  尾   隆



 骨形成と骨吸収は、常時、動的な相互の平衡状態を維持(骨改造現象、骨のリモデリング)しながら進行している。しかし、このバランスが維持できない場合、いわゆる代謝性骨疾患の病態を呈することとなる。
 骨軟化症および骨粗鬆症の病態を図1に示す。骨量に大きな変化がみられず無機質含量が減少した状態を骨軟化症といい、一方、有機質と無機質の相対的含有割合は変化しないが、トータルの骨量が減少している状態を骨粗鬆症という。合併症も存在する。



図 1 骨軟化症および骨粗鬆症の病態

 歯科領域においてもこのバランスの維持は極めて重要である。骨粗鬆症患者では、歯の欠損したヒトが多いことや下顎骨が薄く義歯の装着が困難であることはよく知られている。
 8020達成者の身体の状況を表2に示す。とくに女性の8020達成者は、対象者に比べ、骨密度が有意に高値を示している。また、大腿骨骨密度と歯周組織の状態(アタッチメントロス、歯槽骨頂の高さ、歯の欠損、ポケットの深さ、歯肉炎指数)との間に密接な関連があることも疫学調査により確認されている。


表1 8020達成者の身体の状況


 歯槽骨の骨量や骨密度の低下により、歯周疾患による炎症の拡大、すなわち、歯周組織の破壊がより容易になろうことは想像できる。そこで、パノラマX線写真(デジタル画像)を用いて骨粗鬆化の診断を行い、治療計画立案の一助とする試みも行われている。図2にモルフォロジー処理を行ったパノラマX線写真を示す。



図2 画像処理を行ったパノラマX線写真

この患者の場合、2年間で明らかに下顎骨の骨量に変化がみられる。
 骨形成は骨芽細胞や軟骨細胞の分化・機能発現の結果であり、骨吸収は破骨細胞の活性化により起こる。すなわち、代謝性骨疾患の予防や治療を考えるときには、「骨代謝関連細胞の分化や機能発現のバランスをいかに維持するか」ということが重要である。さらに、骨形成系細胞と骨吸収系細胞は、互いに密接なコミュニケーションをとりながら機能発現していることもよく知られている。

 骨芽細胞の分化制御機構および破骨細胞の形成・活性化機構を、それぞれ、図3および図4に示す。なお、両細胞の分化過程、制御因子の詳細は、すでに、この読み物の「2.骨代謝:骨の形成と吸収のしくみ」に記したので参照されたい。

 骨芽細胞の分化を制御するサイトカインには、BMP(Bone MorphogeneticProtein)、IGF-T(Insulin like Growth Factor-1、成長ホルモン(ソマトトロピン)の刺激により肝臓から分泌されるエンドクリン因子)、FGF-2(Fibroblast Growth Factor-2、従来よりbFGFと呼ばれていた因子)などがあり、また、骨芽細胞への分化とその機能を制御する転写因子には、Cbfa-1、Osx(Osterix)、AP-1ファミリー などがある。


図3 骨芽細胞の分化制御



図4 破骨細胞の形成とその制御
 破骨細胞の分化に関しては、ストローマ細胞が発現するRANKL/ODF(Osteoclast Differentiation Factor、破骨細胞分化因子、アミノ酸316残基からなる細胞膜貫通領域をもつタンパク、TNFファミリーに属する)が破骨細胞のもつレセプター(RANK、Receptor Activator of NF-κB)に作用する仕組みが重要である。また、膜貫通領域をもたないものやOPG(Osteoprotegerin)と命名されたおとり受容体の存在が遺伝子レベルで明らかとなっている。さらに、破骨細胞がカルシトニン、M-CSF、ODF、IL-1のそれぞれのレセプターをもつことが確認された。これは骨改造現象に基づく生理的な骨吸収過程に加え、炎症性の骨吸収機構が存在することを示唆している。

以上、骨芽細胞と破骨細胞が互いに密接に関与し、コミュニケーションをもっていることの具体例が明らかにされ、この分野の益々の研究進展が期待されている。このような基礎的研究の成果が、例えば歯周疾患における歯槽骨再生治療や矯正治療における歯の移動などの歯科臨床に応用される日も近い。今後、臨床に応用するための研究が急進展するものと思われる。


<参考資料>
松本俊夫編 骨・軟骨代謝と注目の骨疾患.羊土社,2002.
小守壽文.THE BONE 1998;12(3):49−53.
藤井克之,井上 一 編. 骨と軟骨のバイオロジー基礎から臨床への発展.金原出版,2002.
片桐岳信,高橋直之.THE BONE 2000;14(1):125−129.
保田尚孝.生化学 2000;72(7):507−525.
早川太郎,須田立雄,木崎治俊.第3版 口腔生化学.医歯薬出版,2000.
池尾 隆.骨代謝:骨の形成と吸収のしくみ〜最近の研究の流れ〜.
         平成12年度大阪歯科大学大学院歯学研究科まとめ. 2001:133−134.