3)キャスタブル・セラミックス
キャスタブル・セラミックスとは、審美的歯科材料の代表である歯科用ポーセレンが術者の熟練度に大 きく左右される築盛法により製作されるのに対し、金属材料と同様、歯科精密鋳造に準じた方法で製作さ
れるため成形が容易であるという特徴を有している.この材料は生体親和性、色調再現性に優れているだ けでなく、鋳造されたガラスセラミックスをセラミングという結晶化熱処理を行うことによりエナメル質
に匹敵する特性を有することができるファインセラミックスである.私達は生体に適用される材料は物理的・化学的性質だけでなく化学組成も天然歯と類似したものを使用すべきであるという概念のもと、キャスタブル・セラミックスのなかでもエナメル質と近似した組成を有するリン酸カルシウム系結晶化ガラスを用いたクリセラ(九耐デントセラム)の臨床応用に向け、適合試験、接着試験、色調再現性および耐摩耗性試験などを行い臨床応用を実現し、多くの症例に適用している.現在、クリセラによるメタルフリーブリッジの臨床応用を行っている.
上顎小臼歯にクリセラを用いて審美修復を行った症例
術前(齲蝕とメタルクラウンによる審美障害)
術後(第一小臼歯にODインレー、第二小臼歯にジャケットクラウン)
クリセラ・ブリッジの寸法精度に及ぼす因子の検索および最適化
患者のQOLの向上とともに,審美性が高く生体親和性のある補綴装置が求められている.リン酸カルシウム系結晶化ガラスは機能性,審美性および生体親和性に優れた理想的な歯冠修復材料であり,単独冠だけでなくブリッジへの臨床応用が期待される.われわれ(鳥井克典.リン酸カルシウム系結晶化ガラス・ブリッジの寸法精度に及ぼす因子の検索および最適化.日本補綴歯科学会雑誌 45:322-331,2001)はリン酸カルシウム系結晶化ガラス・ブリッジの良好な寸法精度を得る技工操作上の条件を見いだすことを目的とし,寸法精度に及ぼす因子について検討した.
材料ならびに審美部門
従来からクラウン・ブリッジを製作するための歯冠修復材料として、金属、有機材料および無機材料を単独にあるいは組み合わせて用いられてきたが、近年特に、金属材料としては生体親和性が高く、アレルギー性の極めて低い純チタンが注目されている.さらに前歯部のみならず臼歯部においても審美性が要求される 時代にあって、開発、改良の著しい有機材料の中から硬質レジンおよびハイブリッド・セラミックスが、また、歴史的に古くから存在する無機材料のなかではキャスタブルセラミックスが新素材として脚光を浴びている.私達の講座では、従来からクラウン・ブリッジに用いられる修復材料について常に臨床応用することを念頭において材料学的ならびに力学的な基礎研究および臨床的研究を行ってきたが、最近ではそれぞれ異なった特性を有する上記3つの新素材に関する検討を行っている.
1)純チタン
純チタンは生体親和性に優れた金属であるにも関わらず、その操作性の難しさから臨床応用が困難であったが鋳造機や鋳型材などの製作過程における環境要素が整ったのち、国内でも最も早く全部鋳造冠の臨床応
用を試み、その成果を報告してきた.さらに、純チタンの陶材焼付鋳造冠やテレスコープクラウンへの応用を目指し、基礎的研究として鋳型材の熱膨張や加熱方法による強度の変化や純チタンと歯科用陶材との焼付
強度に関する研究を行ってきた.また、最近ではCAD/CAMによる純チタンクラウンやメタルコーピングの製作を試み、純チタンの歯冠修復物への新たなる応用を検討している.
純チタンの陶材焼付鋳造冠への応用
CAD/CAMによる純チタンのメタルコーピング
完成した陶材焼付鋳造冠ブリッジ
2)-a ハイブリッド・セラミックス
光重合型硬質レジンは、操作性および色調再現性が容易であることなどから前歯あるいは小臼歯部の前
装鋳造冠やジャケットクラウンに臨床応用されてきたが、審美性に対する関心の向上から臼歯部の応用へ
も要求が高まってきた.ところが、既存の硬質レジンの機械的性質ではその大きな咬合力に耐えうること
ができず、もっと優れた機械的強度を有した硬質レジンの開発が望まれてきた.そこで臼歯部クラウンへ
の応用を前提として、90wt%以上の無機質フィラーを充填し、マトリックスレジンの強度ならびにフィ
ラーとレジン界面の接着強度を強化したハイブリッド・セラミックスが開発された.その中でも、色調再
現性を損なわず機械的性質を向上させるため大小異なる粒径を組み合わせたハイブリッド型フィラーを有
するエステニア(クラレ)の開発に取り組み、臼歯部へのクラウンのみならずテレスコープクラウンの前
装やインプラントの上部構造へも応用している.
上顎小臼歯にエステニアによるジャケットクラウンを用いて審美修復を行った症例
術前(上顎第一小臼歯着色歯による審美障害)
術後(エステニアによるジャケットクラウン)
2)-b ファイバーブリッジ
従来,審美性が要求されるブリッジの症例には,メタルボンドブリッジが多用されているが,最近では,高度な審美性の要求と金属アレルギーなどの問題から,メタルフリーのブリッジが求められる傾向にある.
近年,メタルフリーのブリッジが製作可能なシステムとして,繊維強化コンポジット(Fiber-reinforced composite,以下FRC)による高強度フレームを用いたファイバーブリッジシステムが登場し,臨床応用されてきている
当講座では,ファイバーブリッジ(ESTENIA C&B)の強度の向上を目指して,FRCの配置および形態が強度に与える影響について基礎的研究を重ねている.また,適合性についても着手している.現在,これらの研究から得られた結果をもとに,臨床応用を行っている.
Fujii Takamasa, Kawazoe Takayoshi, Takao Tomonori, Torii Katsunori Suese Kazuhiko. Application to the metal-free bridge of fiber-reinforced composites -Influence of the position of fiber-reinforced composite to flexure strength. 2002 Annual Fall Scientific Meeting of the Korean Academy of Prosthodontics Program Book, 2002: 146
藤井孝政,鷹尾智典,鳥井克典,田中昌博,末瀬一彦,川添堯彬.繊維強化コンポジットの配置が3点曲げ強度に及ぼす影響.日本補綴歯科学会雑誌,2003:47;617.
藤井孝政,鳥井克典,鷹尾智典,木村公一,楠本哲次,川添堯彬.繊維強化コンポジットの配置がサーマルサイクル後の3点曲げ強度に及ぼす影響.第109回日本補綴歯科学会学術大会抄録集,2003;47:89.
藤井孝政,鷹尾智典,鳥井克典,木村公一,楠本哲次,川添堯彬.繊維強化コンポジットの配置が水中浸漬後の3点曲げ強度に及ぼす影響.第110回日本補綴歯科学会学術大会抄録集,2003;47:106.
T Fujii, K Torii, T Kawazoe. Influence of the position of fiber-reinforced composites to flexure strength after water storage. The 3rd Biennial Congress of Asian Academy of Prosthodontics Program Book, 2003: 29.
T Kawazoe, T Fujii, T Takao. Application to metal-free bridge of fiber-reinforced composites -Effect of the position of fiber-reinforced composites on flexure strength after thermal cycling-. The 3rd Biennial Congress of Asian Academy of Prosthodontics Program Book, 2003: 31.
藤井孝政,鷹尾智典,鳥井克典,松島恭彦,田中昌博,川添堯彬.各種繊維強化コンポジットの3点曲げ強度の比較.平成15年度日本補綴歯科学会関西支部総会並びに学術大会,神戸市.
藤井孝政,川添堯彬.新しい歯冠修復装置−ファイバーブリッジの臨床応用−.日本歯科評論,2004;64(2):189-191.
藤井孝政,鷹尾智典,鳥井克典,柏木宏介,田中昌博,川添堯彬.繊維強化コンポジットの形態がブリッジの3点曲げ強度に及ぼす影響.第111回日本補綴歯科学会学術大会抄録集,2004;48:130.
鷹尾智典,藤井孝政,鳥井克典,木村公一,田中昌博,川添堯彬.繊維強化コンポジットを応用したブリッジの辺縁適合性−ダイスペーサーの厚みの影響−.第112回日本補綴歯科学会学術大会抄録集,2004;48.
藤井孝政, 鳥井克典, 川添堯彬.FRCのメタルフリーブリッジへの応用.
日本歯科医師会雑誌,2004;57:437.
藤井孝政, 柏木宏介, 川添堯彬.繊維強化コンポジットの形態がブリッジの強度に及ぼす影響.歯科医学,2004;67:297.
川添堯彬,藤井孝政.Q&A−FRCを用いたファイバーブリッジの製作−.Dental Diamond,2005;30:111-112.
藤井孝政, 柏木宏介, 川添堯彬.繊維強化コンポジットの形態がブリッジの強度に及ぼす影響.歯科医学,2005;68:92-98.
藤井孝政,鷹尾智典,小山和彦,疋田陽造,村田洋一,川添堯彬.各種繊維強化コンポジットによるハイブリッド型レジンの補強効果について.第113回日本補綴歯科学会学術大会抄録集,2005;49:105.
1)天然歯の測色に関する研究
近年,補綴装置において審美と機能の調和が求められ,特に歯冠修復物の審美性に対する評価は術者だ
けでなく患者サイドにおいても厳しいものがある.従来から天然歯の色を測る場合には最も簡便な方法としてシェードガイドによる視感法が行われている.
しかし視感法は,周囲の環境に影響されやすく,主観的であることから天然歯の色調を客観的に評価する
ことは難しい.そこでわれわれは測色器(Shade Eye(R)松風社製)を用いて客観的に歯の色を評価し,前歯
はもちろん臼歯においてもより天然歯に近い色調を有した補綴装置を製作することを目的として,現在天然
歯の色の傾向について研究を行っている.
1. 本測色器の評価値について検討し,さらに被験者が視感法に
よって選択したシェードと本測色器から求めた評価値について比較,検討を行った.(鳥井克典,岩田光生
,末瀬一彦,柏木宏介,安田俊治,上田直克,田中昌博,川添堯彬.歯科用接触型測色器Shade Eye(R)を用
いた天然歯の測色に関する研究.日本補綴歯科学会雑誌 1998;42(6):231.)
2.術者間の測色値のばらつきから,本測色器での上顎第一小臼歯の測色の可能性について検討した.また上顎第一小臼歯の色彩
学的特徴を得るために前歯の測色値との比較,検討を行った.(鳥井克典,末瀬一彦,岩田光生,安田俊
治,上田直克,更谷啓治,川添堯彬.臼歯の色調に関する研究 第1報 上顎第一小臼歯の測色について.
歯科審美 1999;11:2 )
Shade Eye(R)による天然歯の測色

2)人工視覚技術を応用した歯のシェード解析装置(ShadeScanTM)
に関する研究
歯冠色測色装置は,人間の目に対応する3つのセンサーで測定を行い,その刺激値を計算する刺激値直読型測色装置と,歯冠色の分光反射率を測定して刺激値を計算する分光測色装置が開発されている.最近新たに,歯冠全体の画像データに基づいて歯冠色の測定を行う画像データ解析型測色装置が考案されている.なかでも,人工視覚技術(artificial vision technology)を応用し,歯冠全体のシェード分布図を表示するシェード解析装置が開発され,臨床応用されている(ShadeScan
TM,CYNOVAD社).
当講座では,市販のシェードガイドを対象として,ShadeScan使用時の歯面からの測定距離,歯面に対する測定角度,そして隣在歯の欠損が,シェード分布図に及ぼす影響を検討している.また,天然歯を対象とした測定の信頼性についての研究にも着手している.
柏木宏介,鳥井克典,藤井孝政,鷹尾智典,高寄直昭,田中昌博,川添堯彬.人工視覚技術を応用した歯のシェード解析装置について.日本補綴歯科学会雑誌 :2002;46(108回特別号):148.
TAKAO T,KAWAZOE T,KASHIWAGI K,FUJII T,TORII K.The dental shade measurement system applying artificial vision technology - Influences of the state of loss in adjacent teeth to shade distribution chart.The Korean Academy of Prosthodontics 2002 Fall Meeting Abstract of the 2002 Korean Academy of Prosthodontics Busan, Korea:2002:147.
鷹尾智典,柏木宏介,鳥井克典,藤井孝政,田中昌博,川添堯彬.人工視覚技術を応用したシェード解析装置 ─隣在歯がシェード分布図に及ぼす影響─.日本補綴歯科学会雑誌 2003;47(第109回特別号):166.
鷹尾智典,柏木宏介,藤井孝政,鳥井克典,田中昌博,川添堯彬.人工視覚技術を応用したシェード解析装置 ─測定角度がシェード分布図に及ぼす影響─.日本補綴歯科学会雑誌 2003;47(第110回特別号):115.
鷹尾智典,柏木宏介,藤井孝政,田中順子,田中昌博,川添堯彬.人工視覚技術を応用したシェード解析装置 ─測定距離がシェード分布図に及ぼす影響─.平成15年度日本補綴歯科学会関西支部総会並びに学術大会,神戸市.
柏木宏介,鷹尾智典,藤井孝政,鳥井克典,更谷啓治,川添堯彬.人工視覚技術を応用したシェード解析装置 ─天然歯測定における測定者信頼性について─.平成16年度第112回日本補綴歯科学会学術大会.

