支台歯形成って必要なの?  C3班

 クラウン製作にあたり、支台歯形成を行う場合、クラウンマージンの位置を歯肉縁上に設定するか、歯肉縁下に設定するか選択しなければならない。

<歯肉縁上マージン>
 歯肉縁上マージンを設定すると、歯質の削除量は少なく、またその結果、歯髄に対する偽害性もより軽度だと考えられる。また、形成から合着にいたるまで補綴処置において歯周組織を損傷する危険性が少ないことは最も重要な利点である。すなわち、生物学的条件からみると歯肉縁上マージンの利点は多く、人間の重要な器官の一部である歯牙及び歯周組織を可及的に保存、保護するという意味では理想的といえる。
 しかし、その反面欠点も多い。機械的条件に関しては、軸面の高さが短くなるため維持力、抵抗力の不足を招きやすい。そして、この欠点を解消するためには補助維持装置の付与が必要となるが、技術的に案外難しく、また形成の形態が複雑になり、補綴物の適合性が低下しやすい。また、旧補綴物の辺縁位置が歯肉縁下にある場合には、縁上では処理できない。

表1 歯肉縁上マージンの長所
@補綴処置において歯肉に触れることがないため、歯肉を傷つける危険性が少ない
A補綴物、セメントなどによる刺激が少ない
B歯肉との移行部が人工物でないため、自然であり、清掃しやすい
C印象に際し圧排の必要がなく、印象が容易である
D補綴物の辺縁部を直視できるため、適合、形態のチェックが容易である



表2 歯肉縁上マージンの問題点
@審美性に劣り、患者の満足感が得られにくい
A歯冠長が短い歯牙の場合、維持力が弱い
Bカリエスアクティビティ−が高いと予想される場合には、不適応となる
C知覚過敏を生じる場合がある

<歯肉縁下マージン>
 歯肉縁下マージンの設定位置は、歯肉縁下0.5〜0.8mm程度の深さで歯肉溝内に置かれるのが原則となっている。歯肉縁上マージンの問題点が歯肉縁下マージンの利点となる。
前歯部の陶材焼付鋳造冠のような全部鋳造冠では、歯肉縁上の形成限界は外観に触れ、審美的に劣るため、  歯肉縁下にマージン設定するのが一般的である。
 審美性の他に、患者のカリエスアビリテイが高い場合、歯肉縁上マージンは不適応である。歯肉縁付近は、プラークや食査の停滞しやすい部位で、先天的不潔域とされているため、歯肉縁上マージンでは2次カリエスが発生する可能性が高い。しかし、歯肉縁下マージンは充填窩洞の歯頸部辺縁は歯肉縁下に設定すべきとするG. V. Blackの原則を踏襲しており、二次カリエスを予防できる。
 歯肉縁下マージンの欠点は、適合性の確認や形成・印象が困難であること、歯肉と人工物の接触により、歯周組織へ為害作用を及ぼすことが挙げられる。

表3 歯肉縁下マージンの欠点
@適合性の確認が困難である
A接合部が歯肉縁下になり、現在の技術ではセメント質を0にはできないため、歯周組織に為害作用を及ぼす可能性がある
B形成、印象が困難である

<クラウンのマージン位置と歯周組織の関係>
 マージンを歯肉縁上におくか、歯肉縁下におくかで最も問題となるのは歯周組織への影響である。この点については歯肉縁上マージンが適しているのは明らかであるが、クラウンマージンの適合、患者の口腔清掃状態が良好であれば歯肉縁下にクラウンマージンを設定しても臨床的には許容範囲であると考えられている。
また、Waerhaugは、歯肉溝底部より0.4mm離し、かつ十分適合を得ることができれば、歯肉縁下マージンが歯周組織に破壊的な作用は起こさないであろうと述べている。
 また、Newcombはマージン位置が歯肉溝底に近ければ近いほど、歯肉の炎症はひどくなり、最も炎症程度が重篤な場合は、マージンが歯肉溝底にある場合だと報告しており、歯肉縁下にクラウンマージンを設定する場合には、不安定な歯肉縁を基準とするのではなく、歯肉溝底部より0.5mm以上離れた位置であれば、歯肉縁下マージンであっても歯周組織に対する影響は少ないと考えられる。
 つまり、歯肉溝底部より0.5mm以上離れた位置であれば、歯肉縁下マージンであっても、歯周組織に対する影響は少ないと考えられる。
 臨床の場おいては、審美的要素が大きいfacing type crownの場合など、歯肉縁下に設定する必要があることが多い。歯肉縁上マージンが適用できる機械は意外に少なく、一般的に適応症は大臼歯および、下口唇で十分遮蔽される下顎歯などになる。
 歯肉縁上、縁下それぞれの利点・欠点を理解し、どちらを選択するかは症例に応じてきめるべきである。また、どちらを選択しても利点を生かし欠点を抑える工夫が必要である。縁上、縁下を考える際に、マージン自体がどれだけ重要であるかということも常に念頭においておく必要がある。歯に不適切な形成が行われると、長期的な口腔の健康にも悪影響を与えかねない。接合部が粗造であったり、不規則であったり、“段差”がついていたりすると、マージンの長さが著しく増大し修復物の適合度は相当減少する。なめらかなマージンを形成することの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはない。時間をかけて滑らかなマージンを形成すれば、最終的に、より長期使用に耐えられる修復物を患者に提供できることになる。
 予後という点では、補綴修復物はブリッジよりも可撤性義歯の方が優れていると考えられているが、ある研究では、ブリッジの方が支台歯残存率が高いと報告されている。それによると、臼歯中間欠損症例に対して、何も処置せず放置した場合(UNTX)、ブリッジ処置した場合(FPD)、可撤性義歯を装着した場合(RPD)、それぞれの支台歯残存率を調べた結果、処置後6年においてFPDの支台歯は95%残存していたがRPDの支台歯は約80%しか残存しなかった(図1)。


図1

 以上のような結果から適合性のよいブリッジの支台歯形成を行うことが重要となってくる。今まで述べてきたように歯肉縁下もしくは縁上にマージンを設定するかはどちらにも、利点欠点があるが、各症例に応じて選択するべきである。また、適切な支台歯形成、マージン設定が支台歯の残存率に大きく影響することを念頭に置き我々は日々努力することが必要である。

参考文献
藤本 順平:クラウンブリッジの臨床 第2版,141-143,1999.
中尾 勝彦,中村 公雄:実力アップ 支台歯形成,114-121,1993.
Daniel A. Shugars et al.:Survival rate of teeth adjacent to treated and untreated posterior bounded edentulous spaces, JADA,Vol.129,1089-1095,1998.