高齢者歯科学講座の研究は、昭和20年代,当時牧野にあった補綴研究室が理工班,機能班,組織班の3つに分けられて以来,現在まで継続して研究を続けてきました.
平成21年度より理工班と組織班を統合しバイオマテリアル班と顎口腔系研究班の二班に再編し,より一層活発に研究を進めて参ります.
各研究班の取り組みについて以下に示します.
バイオマテリアルグループ
現在バイオマテリアルグループは,小正裕教授を筆頭に,樋口裕一講師,柿本和俊講師,川本章代講師,井上太郎助教,大学院生らで研究を行っています.
これまでの研究としては,補綴装置の製作技術-材料のレーザによる加工,チタンの歯科応用,セラミック材料の開発,床材料の研究や補綴処置に対する周囲諸組織の適応様式を知るため電顕組織学的,組織化学的ならびに生化学的に検索を行なってきました.また、レーザによる歯の切削についても研究しています.さらに、臨床研究として高齢者の口腔ケア,歯科医師や患者の睡眠状態,高齢者や総義歯患者の統計についても調査しています.
・歯科材料のレーザ加工
昭和59年から大阪大学接合科学研究所(当時は溶接工学研究所)の指導を受けながら研究を続けてきました.レーザ溶接には,作業時間が短いうえにろう材を使用しない接合が可能であるといった特徴があります.われわれは,主として歯科用金属材料のレーザ溶接性,溶接変形・欠陥の防止,異種金属のレーザ溶接,金属と樹脂の接合などについて検討を続けています.
・反応層を生じさせないチタン鋳造の検討
チタンは機械的性質や生体親和性などが良好であり,インプラントや補綴装置の材料として優れています.加工法として,ロストワックス法を用いた鋳造法が一般的です.しかし,チタンは高温での活性が非常に高いので,鋳造体の表層には反応層と呼ばれる埋没材と反応した汚染層を形成し,良好な性質が損なわれます.
そこで,反応層の抑制を目指して,埋没材の改良,耐火模型やワックスパターンのコーティングあるいは焼結鋳型について検討しています.さらに,臨床応用を視野に入れ,適合性についても検討しています.
・新しいオールセラミッククラウンの開発
オールセラミッククラウンは審美性に優れた歯冠修復物ですが,製作時間が非常に長い,製作装置が高価であるなどの問題点を持っています.そこで,特別な装置を必要とせず,製作時間も非常に短い製作方法を開発し,臨床応用に向けて取り組んでいます.
・床義歯の精度および変形
義歯の床用材料としてアクリリック樹脂,ポリカーボネート樹脂が利用されています.また,コバルトクロム合金,チタンなどの金属材料も利用されます.これらの材料を用いた義歯の成形による寸法変化や変形を調べています.
・生化学的分析
口腔組織細胞を培養し,培養条件に対して分化に影響を及ぼす因子と考えられる細胞外マトリックス成分を添加し,細胞からmRNAを抽出しリアルタイムPCR法にて検索するなどの遺伝子レベルでの解析を行っています.さらに,インプラント材料としてのハイドロキシアパタイトやチタンに対する細胞の挙動における細胞外マトリックス成分の影響についても検索しています.
・インプラント材料と口腔組織の界面
ハイドロキシアパタイトやチタンに対する口腔組織の反応について組織学的ならびに組織化学的に観察し,また生化学的ならびに生体力学的に分析しています.
・レーザによる歯の切削
Er:YAGレーザによる歯の切削効率の向上を図るために,切削機構の解明を進めてきました。さらに、Er:YAGレーザ以外のレーザによる歯の切削についても検討しています。
・高齢者の口腔ケア
高齢者にとって口腔ケアが非常に重要なことは言うまでもありません.われわれは,高齢者の口腔ケアの現状を調査するともに,義歯の清掃や義歯洗浄剤の効果,義歯の保存方法およびデンチャープラークについても細菌学講座の協力を得て研究を行っています.
・睡眠状態
歯科医師の睡眠状態と日中の活動量について調査し,睡眠が歯科医師の日常生活に与える影響について検討してきました.その結果、歯科医師の睡眠状態は良好とはいえないこと,睡眠状態は歯科医師の日中の診療をはじめとした活動に影響することを解明しています.
・高齢者と総義歯患者の統計
半世紀にわたり大阪歯科大学附属病院に来院した総義歯患者の統計的観察を続けています.また、高齢歯科の来院患者についても統計的観察を行っています.
顎口腔系研究グループ
我々の研究グループは、顎口腔機能の維持・回復を目的として、基礎的あるいは臨床的な研究を行っています.研究テーマは、嚥下動態の解析、嚥下関連筋の解析、機能時の顎堤粘膜の動態、口腔感覚の評価、補綴治療時のストレス評価、口腔内細菌と洗浄に関するものなど幅広く高齢者の補綴治療や摂食・嚥下困難な高齢者のリハビリテーションに必要なデータを収集しています.
現在、髙橋一也准教授、小野圭昭講師、渋谷友美助教、楠尊行助教、大学院生らのメンバーで研究を行っています.
・自由神経機能の解析
臨床的に頻度の高い非侵襲的処置として、概形印象採得に着目し、血圧値を指標として、印象採得中のストレスが自律神経機能に及ぼす影響を評価してきました.平成18年から中央歯学研究所に導入された赤外線電子瞳孔計によって客観的かつ定量的に自律神経機能を評価することが可能となり、咬合干渉付与時の自律神経機能の評価をしてきました.さらに歯科材料の味や匂いに対する自律神経反応の解析を行っています.
・摂食・嚥下動態の解析
摂食・嚥下障害に対する基礎的または臨床的データの収集を目的として研究を行っています。これまで、嚥下時の下顎運動と口腔内圧・咽頭圧の解析、鼻咽腔閉鎖機能をパラメータとして嚥下時における鼻呼吸動態の解析、至適嚥下量や連続嚥下時における姿勢変化の影響について研究を行ってきました.現在は、口唇や頬といった口腔周囲筋と嚥下圧の関連性についても検討を重ねています。これらの結果は嚥下障害の診断やリハビリテーションに応用できると考えています.
・口腔清掃と口腔衛生状態の関連性についての解析
近年、誤嚥性肺炎予防のために口腔清掃の重要性が認識されています.我々は、口腔内バイオフィルムである舌苔に注目し、舌苔除去がどのように口腔内細菌の減少に寄与するか検討しています.