3. テルル-リチウム交換反応を利用した極性反転型活性種の発生と捕捉

有機化学は、炭素、水素、酸素、窒素を中心とした化合物が主な研究対象である。しかし、その合成反応には、ヘテロ元素と呼ばれる様々な種類の元素が利用され、その特徴を活用する高効率な物質変換反応が開発されている。我々は、周期表第16族の元素であるテルルを利用する有機合成反応に取り組んでいる。最近、イソシアナート誘導体と有機テルロアルミニウム試薬を用いることにより、従来法では発生させることが困難な極性反転型活性種2の発生と捕捉に成功し、これが窒素原子上に水素または芳香族基を有するカルバモイルリチウム1の合成化学的等価体として利用可能であることを示した。
4. 薬理活性が期待される複素環化合物の新規合成法の開発

セレンはヒトの必須微量元素であり、近年薬理活性を有する環状有機セレン化合物の合成が精力的に行われている。我々は、1,3-ベンゾセレナゾール3は対応する1,3-ベンゾチアゾールからの類推により農薬や機能性材料としての活用が期待されるのに対して、これまで簡便な汎用性の高い合成法が無かったことに着目し、種々のベンゾセレナゾール3の合成に取り組んだ。 その結果、オルト位にハロゲンを有するフェニルイソシアニド(1または2)をヨウ化銅存在下、セレンとアミン、アルコール、チオールなどの求核剤と反応させると高収率で3が合成できることを見いだした。 空孔内に触媒性官能基を有する新規人工酵素の開発
エネルギー資源に乏しいわが国では、日本の近海に相当量存在しているメタンハイドレートの有効利用法を探索することが最優先の課題になっています。しかしながら、メタンのCH結合の反応性が乏しいため、メタンをC1炭素資源として利用する方法は限られています。また、常温常圧下でメタンからC1炭素資源として有用なメタノールに直接酸化する反応は、メタンモノオキシゲナーゼに代表されるメタン資化細菌に含まれる酵素の反応しか知られていません。

本研究では、空孔内反応場を利用してメタンからメタノールに直接酸化する反応の開発に取り組んでいます。本カプセルは酸化触媒として働く不安定な金属活性酸素種を内側に持つため、常温でも金属活性酸素種を長寿命化すると期待されます。また、空孔内にメタンの包接能を持たせることで、常圧でもカプセル内にメタンが取り込まれて金属活性酸素種と反応すると予想されます。以上の機能が協奏的に働くカプセルを創出し、常温常圧下でメタンからメタノールに直接酸化できる環境にやさしい反応の開発を目指しています。 |