大阪歯科大学附属病院

顎変形症外来について

先天的にあるいは後天的に顎の成長に異常が生じると、噛み合わせの異常口顎の変形が起こ ります。こうした問題を取り除き、正常な咬合と顎の働きを獲得するために口腔外科が中心とな り、矯正歯科などと協力してチーム医療を行います。

 
症状

顎の形態や顔の形に変形がある、咀嚼や発音がうまくできない

治療法

下顎骨切り術・上顎骨切り術等の外科的矯正治療、手術前の矯正歯科治療

検 査

X線検査、CT検査、顎顔面の形態検査、顎機能検査

担当科

口腔外科 本館4階 (TEL)06-6910-1076

診療日

月曜日~金曜日(午前8:45~11:30、午後1:30~3:00)

料 金 「保険診療」*ただし、手術を伴わない矯正的治療は「自費診療」

顎変形症とは

一般的には聞きなれない言葉ですが、顎変形症とは顎骨の異常によって顔貌の変形、咬合の異常をきたす疾患を言います。顔面は上顎骨、下顎骨、頬骨、前頭骨などの骨より作られ、このうち顎(あご)を構成する上顎骨と下顎骨には食物を食べる(咀嚼)機能に重要な歯が存在します。顎変形症は特に顎(あご)を構成する上顎骨、下顎骨の大きさの異常、位置の異常、上下、左右のバランスの異常によって見た目の顔貌の異常のみでなく、噛み合わせの異常によって、上手く噛めない(咬合の異常)、話しづらい(構音障害)などの機能異常が現れる病態を言います。

顎変形症の分類

顎変形症には生まれつき顎骨に変形の認められる先天性の顎変形症、骨折、腫瘍や手術後の変形治癒などによって生じる後天性顎変形症、それと成長発育段階によって生じてくる発育異常に伴う顎変形症に分類されます。このうち成長発育によって生じる顎変形症が最も多く、「顎変形症外来」では成長発育に伴う顎変形症や先天性の顎変形症を取り扱っています(図1)。

顎変形症の分類

◆先天性顎変形症
第1,第2鰓弓症候群・Treacher Collonns症候群・Pierre Robin症候群 など

◆後天性顎変形症
外傷,炎症,腫瘍,骨折,術後の顎骨の変形

◆成長・発育に伴う顎変形症
上顎前突症・上顎後退症・下顎前突症・下顎後退症・開咬症・顔面非対称・上下顎前突症

顎変形症治療の目的

顎変形症治療は顎骨の異常に伴う顔貌および歯列(歯並び)の審美的な改善と咀嚼、会話など顎口腔機能の改善の両者を目的として行われます。さらにそれに付随して存在する心理的な悩みを改善することを目的としています。

図1 代表的な顎変形症

顎変形症の治療

顎変形症の治療の手順はまず骨格の異常を顔貌写真、エックス線写真、CT写真、歯列模型などより診査した後、治療計画(歯列矯正治療法の決定、術式の決定など)を立案します。その後、歯列(歯並び)の異常に対する歯列矯正治療(術前矯正治療)を行った後に顎(あご)全体を移動させる手術(顎矯正手術)を行います。手術は全身麻酔下で安全に行うことができます。また、手術は基本的にはすべて口の中から行います。
 
手術後は術後の矯正治療によってより緻密な咬合(噛み合わせ)の完成と後戻り防止のための治療が行われます。また同時に筋訓練などにより、咬合機能のリハビリテーションを行います。したがって、不正咬合の程度(歯並びの悪さ)によって異なりますが、初診から治療終了までは約2 年から数年かかることもあります(図2)。

顎変形症の治療チャート
初診 → 診断 → 術前矯正治療 → 顎矯正手術 → 術後矯正治療・リハビリテーション → 保定・経過観察
*初診:問診・X線検査・CT検査・顎模型・血液検査

図2 外科的矯正治療の経過

顎変形症手術の進展

顎変形症の手術は1849年に行われたのが最初と報告されていますが、現在の手術術式が世界的に確立されたのは約50年前になります。

大阪歯科大学附属病院口腔外科では1971年から歯科矯正科とのチームアプローチによる外科的矯正治療を導入し、現在まで1000例を越える手術を行ってきました。最近では患者さんの要求の多様化や口腔内の健康に対する関心が高くなり、審美的改善のみでなく、口腔機能の改善を目的に矯正治療を希望する成人の患者さんも増加し、顎矯正手術は口腔外科手術の中で頻度の高い手術のひとつとなっています。

術式には上顎骨に対する手術としてLe FortⅠ型骨切り術、上顎前歯歯槽骨切り術があります。下顎に対する手術には下顎枝矢状分割術、下顎枝垂直骨切り術、下顎前歯歯槽骨切り術などがあります(図3)。また、患者さんの要求度が増えるに従って、術式においても単一の手術のみで対応できなくなり、上下顎同時移動術など複合手術や骨延長術の必要な場合もあります。一方、数年前より矯正治療の固定源として新しい概念であるスケルタルアンカレッジ(SAS)が開発され、従来の矯正治療では困難であった大臼歯の遠心移動や歯の圧下が可能となり、新しい矯正治療法手段として応用されるようになっています。

図3 各種骨切り術