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大阪歯科大学

くすりの理論を学ぶ

くすりの起源は古く、日本最古の書『古事記』のなかに記されています。因幡の白兎が蒲の花粉(蒲黄)を傷の治療に用いた話です。外傷に外用薬として用いる生薬で、蒲黄というヒメガマの花粉を乾燥させたものがそれにあたります。くすりの歴史は、医療の進歩を支え、常にリスク・ベネフィットを考慮しながら進歩してきました。その安全性と有効性が証明された薬物が医薬品として患者に届けられています。医薬品としての可能性を秘めたシーズの発見から、臨床研究を経て、実際に患者に届けられるまで薬理学研究者の活躍が期待されています。近年、医療における薬物療法の役割はさらに重要度を増し、より専門性と個別化が求められています。医薬品の開発はめざましく、分子標的薬、核酸医薬などの創薬がプレシジョンメディシンの主役として、脚光を浴びています。薬理学は、疾病の細分化に対応して、診断、治療、先制医療、それらすべての分野に関与する学問です。薬理学では、くすりの理論を学び、くすりを用いた最先端医療に至るまで理解を深めていきます。疾病の治療を担う大きな柱の1つ、薬物療法に求められている社会のニーズは多様化しており、それに応えて最善の選択ができる医療人を輩出したいと考えています。

研究室のメンバーMEMBER

教授/野﨑 中成
  • 講師/中塚 隆介, 佐々木 由香
  • 大学院生/井内 拓磨

学生へのメッセージMESSAGE

本講座は学生ファーストです。国内外の研究機関、大学で経験を積んだ教員が親身になって指導します。薬理学は、基礎医学と臨床医学の境界領域の分野です。研究では、基礎研究から臨床応用に至るまで、すべての過程を対象としています。くすりを用いた治療は医療のコアをなし、これからも学問としての進化が求められています。医療の進歩に貢献できる夢のある学問です。

研究活動

生命現象に関する分子生物学的研究・疾病の診断、治療、予防に関する包括的研究・再生医学に関する基礎的研究を基幹テーマとし、研究において大阪歯科大ブランドを国際社会へ発信していきます。

  1. PARP阻害薬の耐性克服に有効な治療法の開発と新規バイオマーカーの探索
    図1. ポリ(ADP-リボシル)化経路

     

    図2. PARP阻害薬

     

    ポリ(ADP-リボース)合成酵素 (PARP) は、細胞内のNAD+を利用して、様々な標的タンパク質にポリ(ADP-リボース)を合成するポリ(ADP-リボシル)化反応を触媒し、DNA修復や転写制御、エネルギー代謝など様々な生命現象に関わる重要な酵素です (図1)。近年、このPARPを標的とした抗がん薬が開発され、DNA修復因子であるBRCA1またはBRCA2に変異を有する乳がん、卵巣がん、膵がんに対する治療薬として利用されています。本抗がん薬は、合成致死性抗がん薬であり、BRCA1/2といった特定の遺伝子異常を有するがんに対して特異的に致死を誘導することから、正常細胞には作用しにくい、副作用の少ない抗がん薬として期待されています (図2)。
    しかしながら、PARP阻害薬の投与後に耐性が誘導されることが報告されており、PARP阻害薬耐性の獲得は、治療上の大きな問題となっています。現在、PARP阻害薬の耐性機構の解析は十分に進んでおらず、PARP阻害薬耐性を克服する治療法は確立されていません。そこで、私たちはPARP阻害薬の新規耐性誘導機構を解明し、耐性を克服するための治療法を開発したいと考えています。
    また、PARP阻害薬は現在の臨床試験の実施状況から今後急速な適応拡大が見込まれます。近年、口腔がんの罹患者数は増加傾向にあり、有効な治療の選択肢を広げる必要があると考えました。そこで、私たちは口腔がんにおけるPARP阻害薬の有効性と口腔がん治療薬との併用の有効性を細胞レベルで検証しています。今後、PARP阻害薬の効果を予測するための新規バイオマーカーを探索・同定し、その細胞死誘導機序を解明したいと考えています。これらの研究は、将来的に、口腔がんの新たな治療法の確立に繋がるだけでなく、現在治療が困難ながん種に対して、バイオマーカーに基づいて効果的に治療を行う個別化医療に繋がることが期待されます。

  2. 間葉系間質細胞(MSC)を用いた細胞老化に関する研究

     

    間葉系間質細胞(MSC)は、骨、軟骨、脂肪といった複数の細胞系統へ分化する能力を持った組織幹細胞の一つです。MSCはiPS細胞やES細胞などの多能性幹細胞と異なり、がん化する心配がないことから、「再生医療等製品」として製剤化されています。ところが、MSCは培養を続けると細胞老化という現象を起こして幹細胞としての能力が低下してしまい、また、体内でも年齢とともに変化することがわかってきました。私たちは歯髄幹細胞や骨・骨髄の間葉系間質細胞を用いて、MSCがどのようにして細胞老化を起こすのかを明らかにし、高品質なMSCが再生医療に応用できるよう研究を行っています。

  3. 多能性幹細胞からの副甲状腺分化誘導と新しい再生医療・医薬品の開発

    副甲状腺はカルシウム代謝にかかわる臓器で、非常に小さな内分泌器官です。iPS細胞やES細胞からの副甲状腺細胞の作製は長らく実現されてきませんでしたが、私たちはiPS細胞を使った新たな副甲状腺細胞の分化誘導法を開発しました。私たちの研究はまだ発展途上にあり、十分に医療へと応用できる副甲状腺細胞の開発には至っていませんが、将来的には副甲状腺機能低下症の患者さんへの移植医療などの応用が期待されます。また、この副甲状腺細胞分化誘導法は、培養皿の中で副甲状腺の分化・成熟過程を再現できることから、慢性腎臓病患者さんの約1/3で認められる二次性副甲状腺機能亢進症の発症メカニズムの解明や、これらの病気に対する薬などの開発にも役立つと考えています。

  4. 幹細胞が分泌する機能性RNAを介した細胞間情報伝達の研究

    細胞から遊離して血中を循環するエクソソーム機能性RNAは、多様な疾患の非侵襲的な診断バイオマーカーとして注目され、リキッドバイオプシーへの臨床応用が期待されています。例えば、幹細胞が産生する因子が、活性酸素により傷害を受けた細胞に働くことで、心筋や脳の虚血再灌流傷害からの回復を促進します。機能性RNAは、様々な細胞プロセスの維持に関わっていますが、機能性RNAの中でもエクソソームmicroRNAは、微小環境において細胞と周囲の細胞との細胞間コミュニケーションの役割を担うとされています。細胞が分泌する機能性RNAを次世代シークエンスで網羅的に解析し、機能性RNAを介してどのように細胞間コミュニケーションを図っているかを分子レベルで明らかにすることで、機能性RNAを用いた核酸医薬の創出を目指しています。