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大阪歯科大学

EPISODE013

アメリカの歯科医療に触れ、自ら行動できる人になる

2018.5.1 歯学部 / 6年
篠﨑 百合絵

PAST

1これまで

自分から動くことで、広がっていく世界

「どちらかというと活発な性格」と話し、剣道部の女子キャプテンを務め、ガーデニング部とドイツ語研究会にも所属している篠﨑さん。小学生の時にはコーラス部に入部し、その時も部長を任されていました。NHKの合唱コンクールに出場し、全国大会に行ったこともあるそうです。

中学生の時、歯科医師のお父さんが従兄弟の治療をしていました。矮小歯だった部分をレジンで大きく広げ、すきっ歯になっていた部分を埋めていく治療でした。「それを見た時、すきっ歯が治るだけでぜんぜん印象が変わるんだ、と思ったのと、何よりも従兄弟がとても喜んでいるのを見て、ああ、歯科医って面白そうだ、と」。さらにご両親が歯科医師で、一番身近な職業だったということもあり、歯科の道に進むことを決めました。

ご両親の母校である本学に入学し、歯科の世界を知るにつれて、「歯科医師になりたい」という思いがさらに強くなった篠﨑さん。『歯科の魅力』を聞いてみると、「私は食べることが好きなんですが、やっぱり『食べてもらえる』ということ。噛む力がしっかりしていると、元気でいられる時間が長いと思います。それに、自信を持って笑顔になれる。従兄弟もそうだったんですが、前歯にコンプレックスを持っている人は、歯を隠して笑う人も多いと思うんです。それを歯科で治療することで、患者さんに笑顔になってもらえる」。

中学・高校生の時は成績があまり良くなかったと話す篠﨑さん。「学校ですることといえば勉強しかなくて、それ以外のこと、たとえば、部活に入ったり、ボランティアに参加したり海外研修に行ったり…という勉強以外のことは、優秀な人がするイメージ。自分から遠くにあるものだと思っていました」。大学に入ったら、そういったことも挑戦してみようと思い、アクティブに、前向きに、自分の世界を広げていきました。障がい者スポーツの大会でボランティアに参加したほか、4年生の時に取り組んだSCRP(Student Clinician Research Program:歯学部学生の研究発表会)では、日本代表選抜大会で臨床部門の第2位を獲得しました。さらに、海外研修にも参加。「振り返ってみると、たくさんのことを経験できてすごくありがたいし、貴重な体験をさせてもらえたと思っています。挑戦させてもらえる機会が、ここにはたくさんありました」。
出会いの場は、たくさんあるようで意外と少ないといいます。「自分からボランティアに参加したり、先生方とコミュニケーションを取ったりすることで広がっていくんです」。大阪歯科大学については、「思っていた以上にアットホームな学校で、頼れる先生もいるし、部活の先輩にはどんなことでも相談するし、同級生も男女問わず仲が良く、頼れる友達です。家族みたいな存在の人たち。あとはやっぱり、歯科医師を目指して、近づいていける場所」。

PRESENT

2

患者さんと信頼関係を築くことの大切さ

5年生の夏に四川大学華西口腔医学院、年度末にコロンビア大学歯学部への学生短期海外研修に参加した篠﨑さん。海外旅行が好きなお父さんに何度か連れて行ってもらったことがあり、それ以来、海外に興味があったといいます。高校1年生の時の修学旅行で訪れたイギリスとフランスでは、現地の高校生と交流する機会がありました。「英語ができる友達がたくさんいる中で、私はあまり英語が得意ではない。それでもその時、海外の高校生たちと仲良くなることができた。とても楽しかったんです」。それ以来、もっと英語を話せるようになって、海外に留学してみたいという思いがありました。

本学の海外研修の多くは、夏に実施しています。剣道部に入部している篠﨑さんは、全日本歯科学生総合体育大会(日本の大学の全歯学部が参加するスポーツ大会)に出場していたため、研修に参加できませんでした。「女子キャプテンを務め終えるまでは部活を頑張ると決めていたので、とても楽しかったですし全く後悔していません。けれど、いつか海外研修に行ってみたいなと思っていました」。そして四川大学華西口腔医学院の海外研修についての説明会が行われる日、岡崎教授(欠損歯列補綴咬合学)とエレベーターで乗り合わせました。話をするうち、「(説明会に)行ってみたら?」と勧められたそうです。「でも中国という国に、不安もありました。治安も想像つかないし、ニュースで見る中国は怖いし空気も悪いというイメージで、行っても大丈夫かなと思っていました」。そこで、参加したことがある先輩の話を聞いてみました。「その話を聞くうち、楽しそう、行ってみたいという気持ちが膨らんできました」。さらに、そこではコンペティションが行われると知り、「勉強は私よりできる人がたくさんいるんですが、実習や細かい作業は好きなので、やってみたいと思ったんです」。篠﨑さんは、初めての海外研修で、中国・四川に飛び立ちました。

四川大学華西口腔医学院での研修はサマーキャンプと呼ばれ、各国から歯学を学ぶ学生たちが集まります。そこではコンペティションが開かれ、それぞれの大学でチームを組み、主に歯科の手技を競います。なんと篠﨑さんたちは、そこで1位を獲得しました。「コンペでは全部で六つの試験があり、チームからそれぞれ1人が出て、技能を競います。私は編み物と、顎関節を固定する顔面包帯巻きと、英語を使った心肺蘇生の三つに出場しました」。英語が苦手という篠﨑さんですが、コンペの前日にバディに教えてもらい、英語で話しながら心肺蘇生を行う練習をしたそうです。「プログラムのあいだ、四川大学の学生が、研修に来た人に一人ずつ付いていろいろと教えてくれるんです。その学生をバディと呼びますが、彼女たちは毎朝ホテルまで迎えに来て一緒に大学まで行ってくれたり、放課後や休日は食事に連れて行ってくれたり、観光地も一緒にまわってくれたりと、とても優しかった。バディの存在は、とても大きかったです。四川大学はとてもレベルの高い学校で、学生は意識の高い子ばかり。みんなが当たり前のように英語を話すことができ、英語で行われる授業も全員が理解できているんです」。
研修の最後はお互いに泣いてしまうほど、バディとは密度の濃い時間を過ごしました。今でも連絡を取り合っているそうで、「彼女たちは大学が5年生までなので、卒業後の進路はどうしたかという話をしたり…私のバディは歯内治療を選んだらしくて、私もそろそろ進路を決めないといけない時期なので、どういうふうに考えているか、海外の友達と話ができて、いい繋がりを持てたなあと思っています」。

二回目の海外研修では、コロンビア大学歯学部を訪れました。「コロンビアでの研修に参加した先輩の話を2年生の時に聞いて以来、絶対に行きたいと思っていました。名門コロンビア大学の歯学部を見ることができるというのが魅力的でしたし、何より、ニューヨークという場所に憧れて」。しかしそこで、あることに気が付きました。「四川での研修は、皆さんが私に合わせてゆっくり話してくれて、いつも横にバディがいたので、分からないことを教えてくれて、サポートしてくれました。けれど、コロンビアではそうではない。アメリカ人の英語はとても難しかった」。そして何より、アメリカという国の、歯科医療のシステムに驚いたといいます。それはたとえばチェアタイム(診療時間)の長さ。日本だと保険診療のため1回の診療時間が限られていますが、アメリカでは1時間以上もかけて1人の患者さんを診ていたそうです。「アメリカのチェアタイムが長い理由を考えてみたとき、ドクターだけで患者さんを診るからかなと思いました。日本では歯科助手や歯科衛生士さんが手伝ってくれて、道具もドクターが効率よく使える環境が整っている。アメリカでは全部一人でやっていてすごいと思うし、日本は保険診療だから、効率良く診療できる工夫をしている」。
さらにアメリカでは、遠くで診療している先生同士が大声で話をしていたり、BGMをかけて診療していたり、コーヒー片手に別の先生に指導していたり…と、驚きの光景を目にしました。「日本とアメリカ、どっちが良い悪いではなく、それぞれがそういう文化なんですよね。それは日本にいては分からなかったことだと思います」。

海外研修に参加して、苦手な英語について思うことは変わったのでしょうか?「高校の時は勉強をして点数を取らなければならない英語が苦手で、それで英語に対して負い目があったんですが、今は、語学に対する考え方は変わりました。友達ともっと仲良くなりたいという考え方になったというか、自分をうまく操れるようになりました。まだ話すことも読むことも満足ではないけど、勉強したいって思えるようになったのは、海外研修に参加したからかな」。さらに、二カ国の歯科医療・文化に触れたことで、コミュニケーションを取ることの大切さを実感しました。「歯科医って、患者さんがいることで自分の力を発揮できる。だから患者さんとコミュニケーションを取ることってすごく大事だと思うんです。5年生の時に病院実習で診療を見ていて思ったのは、信頼関係が築かれている患者さんは診療を任せてくれるけれど、そうではない場合、不信感を持っているとどちらも不安な気持ちになるし、うまくいかないこともある。やっぱりコミュニケーションを取ることが重要で、そこをしっかりすることで、私は患者さんから頼られる、選ばれる歯科医師になりたいと思っています」。
にぎやかな場が好きで、思っていることを言いたいし、言ってほしいという篠﨑さん。考えるより行動していることが多いといいます。「だから話を聞くのが下手なので、大きな耳を持っていないとダメだなと。そして海外に行って改めて、行動してみる、体験してみるっていいなと思いました。実行しないとわからないこともあるし、不安に思っていることでも、挑戦してみるとプラスに返ってくることがある。たとえマイナスなことがあったとしても」。

FUTURE

3これから

自分が思っている以上に、人は受け入れ支えてくれる

「もっと海外に行ってみたい」と話す篠﨑さん。「剣道部のOBで、海外で診療されている先生がいて、先日お話しさせていただきました。やっぱり格好いいなあと。海外で診療をしてみたいですが、夢のまた夢という感じです」。どこの国で歯科医をしてみたいのか聞いてみると、「アメリカがいい。アメリカは本当にいろんな国の人がいて、憧れますね。周りの目を気にしすぎないというか…私は、挑戦してみたらと誰かに勧められると、してみたい自分がどこかにいるからできるんですけど、自分からは手を挙げられない。だから、自由で誰の目も気にしていない、自分を持っている人たちがたくさんいるアメリカに憧れます」。

子どもが大好きな篠﨑さんは、現在、小児歯科に興味を持っているそうです。「歯科の分野は基本的に、疾患に対する術式で大分されているのがほとんどで、小児歯科は対象が子どもであり、小児に対して総合的に診療する科目です。他分野とは違うなと思いますし、大人では手技で分類されている治療を、子どもに適した方法で全て行うというのが、とてもやりがいのある仕事だなと思います」。さらに、「歯科医師になろうと思ったきっかけは、歯がきれいに並ぶことが嬉しいと思ってもらえると感じたこと。だから、矯正にも興味があります」。夢はなんですか、と尋ねると、「目下の夢は、歯科医師になること。患者さんから信頼される、選ばれる歯科医師になりたい。さらに言うと、女性としてできること、分かってあげられること、自分が経験することでしか伝えられないことってあると思うので、そういう部分を生かしたいです」。

中国で大切な友達が増え、アメリカでは誰の目も気にせず自由に進んでいく歯科医師を目にした篠﨑さん。今度は、たくさんの経験を糧に、自らの人生を描きはじめる番です。「自分が思っている以上に、人は受け入れてくれるし支えてくれる。悩んでいる気持ちがあるなら、絶対に海外研修に行った方がいい。行ってみて得るもののほうが多いから。受け身じゃなくて、自分から行動したほうがいい」。その言葉は、これまでの、そしてこれからの自分に向けた、最大級のエールです。

PROFILE

2018.5.1 歯学部 / 6年
篠﨑 百合絵