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大阪歯科大学

EPISODE014

6年間で全員が国家試験に合格できるように、力になりたい

2018.6.20 歯学部 化学教室 教授
藤原 眞一

PAST

1これまで

常に世界を視野に研究に打ち込む

本学歯学部化学教室の主任教授を務める藤原眞一先生は、兵庫県伊丹市出身。幼少時は人前で話すことを恥ずかしがる、内気な子どもだったといいます。1・2年生の指導教授を担当している藤原先生の部屋には、分からないところを質問したり相談をしたりするため、いつも多くの学生がやって来ます。

高校卒業後、大阪大学工学部石油化学科(現・応用精密化学科)に進みました。「理系に進もうということは、高校生の早い段階で決めていましたね。数学が好きで、でも英語も好きだったから、文理どちらでも良かったのですが」。大学は第一希望だった大阪大学に入学しましたが、学科はじつは第三希望のところでした。電気・機械系の学科をなんとなくで第一希望に出したものの、結果は石油化学科に合格。「今思えば、機械の数や科研費の面からしても、いろいろな先生が講演に来られたりアルバイトでも使ってもらえたりと、結果的にはそこに進めて良かったと、後から思いました」。
旅行が好きで、大学生のときは全国各地を旅しました。しかしそこは学生、お金がないので、夜行電車を乗り継いだりユースホステルを利用したりと貧乏旅行ではありましたが、楽しかったといいます。バイクで北海道に行ったことも、いい思い出です。

深く考えて専攻学科を決めたわけではなかったため、化学の道に進もうと思ったのは3年生くらいの時でした。のちの恩師となる、ある先生との出会いが、藤原先生が将来を決めるきっかけとなりました。「ゼミに来られた先生の講義を受けている時でした。面白いな、と初めて感じ、同時に、大学院まで行こうかな、と初めて思いました」。それまでは自分の将来を考えたとき、本当に今の分野でいいのか、別のところに行ったほうがいいのか迷っていたといいます。「その出会いが、ずっと化学でやっていこうかなと思ったきっかけ。最終的には研究者になりたいと思いました」。その後、准教授だったその先生の講座に配属され、大学院修士・博士課程の6年間をお世話になりました。

勉強はわりとしてきたと思う、と振り返る藤原先生。「受験の時や、高校3年生の夏休みだったら勉強時間は1日10時間を軽く超えていたと思います。英単語を覚えるのは午前中で、昼からは数学や理科というように夜まで予定を入れて」。明日、明後日、一週間先の予定を考えなさいというのは、藤原先生が学生によくアドバイスしていることです。

講座に入りたてで右も左も分からない4年生を経て、大学院に進み、M2(修士課程2年)には、こんな研究をしたいと考えられるようになったといいます。「僕らのところは大体、修士を終えると就職する人が多くて、博士課程に行く人は少ない。博士に進んだら、4年生やM1、M2の子たちに指導するという立場になるんです」。もちろん研究がメインではありましたが、下の学生たちに教えることはわりと面白かったそうです。しかし博士3年になると論文を書かなければならず、さらに将来の進路も考えなければならなかったため、「しんどかった思い出はあります」。
なんとか論文を書き終わった秋頃、本学化学教室の二代目教授・外海啓一先生が退職し、三代目に新池孜先生が就任しました。「一人分のポストが空いたので、新池先生が当時のうちのボスに、誰かいないか、と声をかけたんです。というのも、新池先生もうちのボスも応用化学科出身で、ボスのお子さんの一人が大阪歯科大学出身の歯科医だった。その縁から、声をかけてもらいました」。その時は阪大の研究メインのところに残れたらいいなと思っていましたが、当時はポストの空きがなく、「大阪歯科大学だったら阪大から近いですし、仕事帰りに阪大に寄って研究できるなと思って、最初はそれくらいの感覚で、雇っていただいた」。その時はこんなに長くいるとは思っていなかった、と笑う藤原先生ですが、1989年(平成元年)に本学の化学教室の助手として入職した1年後には講師になり、2004年にアメリカのPurdue大学に留学。帰国後に化学教室の助教授、准教授、2009年10月には教授に就任し、現在まで30年以上に渡り大阪歯科大学で教鞭を執ってきました。

研究では、『硫黄・セレン・テルルなどカルコゲン元素の他の元素には見られない特異な反応性を活用した、新しい骨格変換反応の開発と薬理活性を有する複素環化合物合成への応用』を主要なテーマに進めてきました。その成果はアメリカ化学会誌『Journal of the American Chemical Society(インパクトファクター7.8以上)』を始めとする国際的な学術雑誌に多数掲載されています。「もっと上のレベルではNatureやScienceがありますが、 Journal of the American Chemical SocietyとAngewandte Chemieが2大化学誌で、ここに掲載するのを目標に研究を始めて、1996年くらいからずっと論文を出し続けていました」。
本学入職前は研究がメインのところに行こうと考えていた藤原先生ですが、民間企業に移ろうとは考えなかったといいます。「教員には、ずっとなりたかったので。機会があれば他大学に移ろうかと考えたことはあります。歯科大学にいると、(専門分野が化学のため)どうしても他大学の研究者より差が開くんです。学生さんの数も全然違うし、論文の数は数倍の速度で開いていく。ただ、論文の内容だけは負けないように、ずっと心掛けていました」。

PRESENT

2

学年指導教授として、学生と接する毎日

教育に関しては、主に1年生、そして4・5・6年生の講義を受け持っています。歯科大学における化学の役割は、いわゆる一般の大学で学ぶ化学とは少し異なるといいます。「うちの場合は人に関する部分に特化した講義をしています。僕の専門は有機金属触媒を使った反応なんですが、そういう話は一切せず、生化や理工、薬理に繋がる、学生の将来有用な講義を1年生では行います」。

教授になる前までは研究が主でしたが、教授になってからは教育にシフトしてきたという藤原先生。「教授に就任した翌年4月から、ずっと指導教授をさせてもらっている。もう9年目です」。慣れない環境に戸惑い悩む新入生が大学に慣れ、歯科医師という夢に向かって歩いていけるよう導くためには、学生のことを知らなければなりません。「だから、指導教授になった時に、なるべくたくさん学生と話をしようと決めた」と話します。「顔と名前を覚えるのが最初で、次に声掛けをして話をしていろんな情報を知って、上の学年になっても話ができるようにする。なるべく名前を呼んで話すことを心掛けていますね」。どういうふうに学生と先生の距離が近づいていくのかというと、会って、話をしているときだといいます。「名前と顔を覚えておくことが一番大切。廊下で名前を呼ぶと振り返りますから、声をかけやすいですしね」。

学生には、講義で分からなかったことや相談など、なんでも良いので先生に質問に行くようにとアドバイスしています。「質問に行くためには学生自身が勉強していないといけないので、成績の悪い子はあまり部屋に来ない。来る子はどんどん質問するからそのぶん成績が上がっていく。予備校に行くより先生に聞きに行くのが一番良い」。両親や友達に言えないことも先生には言ってくれたり、大学生活で困ったことがあれば相談してくれたりと、大変なこともありますが、来てくれたら嬉しいと笑います。

先生のところに行くのは緊張するかもしれない、なかなか行けないのは敷居が高いから、と話す藤原先生。そのため、できるだけ学生が入りやすいよう、教授室のドアは冬の寒いときや来客時以外はいつも開けており、向こうから話しに来たときに拒絶しないことを心掛けています。初めて先生の部屋に行くときが一番ハードルが高く、一度行くと、わりと打ち解けるようになるといい、「付き添いでもいいから来なさいと、友達が質問に行くと言っていたら一緒に付いてくるだけでもいいから、隣で聞いていたらいいからと伝えています」。

5、6年生の講義をすると、学生の成長を感じます。「全員1年生の時から見てきているので、この子は成績が上がったなとか、1年生の時はヤンチャだったけど変わったなあとか、成長してくれていたらやっぱり嬉しいですね」。本学では5年生から天満橋キャンパスに移りますが、楠葉に来たら部屋に寄ってくれる学生や、天満橋に行くと話しかけてくれる学生も多いそうです。

FUTURE

3これから

たくさん話をして学生の力になりたい

藤原先生はSCRP(Student Clinician Research Program:全国の歯学生による研究発表の大会)に向けた学生研究のため、授業以外でも研究指導をサポートしています。「僕の化学教室は、研究面では本学最高レベルだと自負しています。世界レベルの研究者を相手にしているので、それだけ研究の進め方は厳しいし、レベルの高い雑誌に論文が載るような研究をしている。だからノウハウが鍛えられているんです」。歯科に関しては素人ですが研究に関してはプロなので、ときっぱり。学生がしたいということに関しては、ある程度は対応できると話します。「学生が考えたテーマで競うのだったら、SCRPで勝てるよう指導する自信はあります。専門的なところは他の講座の先生に教えてもらえば良いので、研究の進め方に関しては十分対応できると思っています」。過去6年間で3回、化学教室の先生が指導した学生がSCRPに出場し、うち2回は臨床部門第2位に輝きました。

学生と一緒に何かをしたい、と話す藤原先生。本学には、何かに挑戦してみたいという学生がたくさんいて、でも何をしていいのか分からないという学生のきっかけになればと、オープンキャンパスや子ども大学探検隊の学生ガイドなどを勧めています。それをきっかけに自分の能力をどんどん広げ、シドニー大学やコロンビア大学での研修に参加した学生がたくさんいるそうです。
教員と学生の距離が非常に近いこと、先生と身近に接する機会が多いことが本学の長所だといい、「それは良いところだし、学生が何かに挑戦すると後押ししてくれる先生が多くて、そういう雰囲気があるのも良い」。学生と一緒に何かにチャレンジする機会は、今後も作っていきたいと思っています。
また研究については、今は講座にいる若手の先生が取り組んでくれており自身は研究に割ける時間がなかなか取れませんが、まとまった時間が取れれば、まだ論文にしていないものをこれから形にしていくつもりです。

指導教授を任せてもらったことが一番嬉しかったと振り返る藤原先生。「学生と話す機会が増えたし、最も嬉しかったのは、1~6年生までの全員が、僕が指導教授をした学生だったとき。在学生全員が、みんな僕が担当した学生だ!と思って。これは本学で初めてだと思うし、これからもそうそうないと思います」。責任はもちろん大きいですが、彼らが一人前の歯科医師を目指して努力する姿を見ること、それをサポートすることは、藤原先生の喜びです。

「定年まであと9年。再来年に入ってくる学生を卒業まで見られるかというくらいですが、入学した子たち全員が歯科医師になってほしい。できたらそれを6年間の最低修業年限で、というのが目標です。そのために、たくさん話をして、彼らのことを理解したい。そういう先生が多ければ多いほどいいかなと思っています———そういう力になれたらいいですね」。学生の成長を心から願い、一人ひとりに愛情を持って接するその姿勢が、多くの学生に慕われる理由です。

PROFILE

2018.6.20 歯学部 化学教室 教授
藤原 眞一