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大阪歯科大学

第8回臨床ゲノム医療学会 “大阪学術大会”(2018年12月9日)

12月9日、臨床ゲノム医療学会の第8回学術大会が大阪歯科大学創立100周年記念館で開かれ、本学の川添堯彬理事長・学長が大会長を務めました。大会テーマは『先制医療としてのゲノム予防医学・歯学への展開 '2018 ~ゲノム歯科医は、マーナ(mRNA)検査で病気を入口・口腔で止める~』。医科、歯科界から錚々たる先生方を演者に迎え、名誉大会長基調講演、特別基調講演、特別講演五つ及び教育講演八つが行われました。

大会は8時55分に開幕。はじめに、大会長の川添理事長・学長が、開催にあたり渥美和彦・同学会理事長から多大なご支援を頂いたことに対して謝辞を述べ、「今日一日が(ご参加の)先生方の将来、方向付けにとって、何か響くものがあればこの上ない幸せ」と挨拶しました。

続いて教育講演が始まり、最初に本学歯学部教員3名が講演しました。医科で先行するゲノム研究は、歯科においてどのような展望を描けるのか。橋本典也准教授は、従来血液サンプルを用いて行われているmRNA検査が、非侵襲性で採取が簡便な唾液によっても可能であることが明らかになったと報告。本田義知准教授は、唾液を用いた血管老化診断法開発への取組みを、南部隆之講師はゲノム診断の結果から、口の中に棲む細菌パターンを予防医学的に「疾患型」から「健康型」へ変える、個別化医療への試みをそれぞれ紹介。3者3様のアプローチによって、歯科におけるゲノム研究の展望を示しました。

橋本 典也 准教授

本田 義知 准教授

南部 隆之 講師

次に特別講演に移り、演者一人目として大阪大学大学院医学系研究科の熊ノ郷淳教授が登壇。「免疫研究と臨床応用」と題して、本庶佑・京都大学特別教授のノーベル医学生理学受賞で、いま最もホットな免疫研究の歴史と臨床応用について解説されました。また最強のがん免疫療法といわれるCART(Chimeric Antigen Receptor T)療法についても触れていただきました。
特別講演二人目は、大阪国際がんセンターの松浦成昭総長。この数十年で飛躍的な進歩を遂げた、がんの治療法—手術・放射線・薬物治療—を説明した上で、今後はゲノム医療に大きな期待が集まっていると述べられました。
特別講演3人目は、学会理事の白澤卓二・白澤抗加齢医学研究所所長。軽妙な語り口で、全米で話題のベストセラー『アルツハイマー病 真実と終焉』(デール・ブレデセン博士著。邦訳版は白澤先生監修)について解説し、アルツハイマー病が根本原因から治療できる時代が到来していることを示唆されました。ここで午前のプログラムは終了。

お昼時間を利用して、附属病院内で開かれたランチョンセミナーでは、本学歯学部の奥野健太郎助教が「口腔内治療でメタボリックドミノを食い止める! —睡眠時無呼吸症への歯科的アプローチ—」と題して講演しました。落語による解説など、奥野先生の工夫をこらした発表に参加者も終始リラックスして耳を傾けていました。
また過去最多の24題もの演題が展示されたポスター会場では、本学歯学部3年生3名が、歯科ではあまり行われていない文献研究について発表しました。

ランチョンセミナー

奥野 健太郎 助教

ポスター発表

午後は、学会理事長で東京大学名誉教授の渥美和彦先生による名誉大会長基調講演で再開。「ゲノム診断の現在と未来」というタイトルで、これからの医療においては病気を予防するという予防医療が非常に重要となり、予防医療の本幹となる遺伝子科学の中枢にゲノム診断があること、ゲノム診断はまず地域で広がり、その後全国に展開していくと考えられるとお話しされました。

続いて、渥美先生から第三高等学校時代のクラスメイトという紹介を受けて登壇されたのは、斯界の権威で京都大学元総長の井村裕夫先生。「医療の新しい動向 —精密医療(プレシジオン・メディシン)と先制医療—」と題して、特別基調講演をしていただきました。最近のゲノム医学の進歩を概観し、それに基づいて、さまざまな病気(がん、単一遺伝子病、多因子疾患)の研究は今後どのようなステップで進んでいくか。見解を示された上で、21世紀の医学(歯学・薬学を含む)は、疾患発症後においては、標準的な医療から個人のゲノム情報に基づく個の医療「精密医療」へ、発症前においては、一般的な予防からライフコース情報に基づく先制医療(発症前診断と介入)へと進むことによって、健康長寿が実現できるのではないかと結ばれました。会場全体がじっくりと聴き入った井村先生の講演後は、感銘を受けたという聴講者から熱心に質問が寄せられました。

次に、特別講演Ⅳでは、世界初のiPS細胞移植手術を実現に導いた理化学研究所プロジェクトリーダーで眼科医の髙橋政代先生が「アイセンターでの網膜変性疾患遺伝子診断と先制医療」と題して講演されました。髙橋先生は最初に、眼と口腔の健診は重要であるにもかかわらず、いい加減に行われていることが多いと指摘。続いて現在取り組む、神戸アイセンター病院での患者ケアを中心においた遺伝子診断システムの構築と、網膜色素変性等の原因遺伝子の治療「先制医療」の開発についてお話しされました。
特別講演最後は、学会副理事長で愛知医科大学の福沢嘉孝教授が「先制医療による今後の医療のパラダイムシフト ~未病の見える化・未病改善誘導の戦略的健康増進外来」と題して、同大学病院の当該外来で経験された症例を基に、意識付け・行動変容が未病改善にいかに役立つかということを解説されました。

その後、教育講演に戻り、5名の先生方が順次登壇。mRNA検査を発明された国際医療福祉大学の筒井久美子助教からは、mRNA検査に基づくテーラーメイド型の健康管理システムの構築や、ビッグデータ解析の将来展望についてお話がありました。
従来検査に1時間以上を要した歯周病治療において、原因菌が特定可能な簡易な細菌検査が開発されたことを紹介されたのは大阪府開業の歯科医師・阪本貴司先生。初年度からゲノム学会に参加し勉強してきたという、大阪府開業の歯科医師・赤木誉先生は「空想からmRNA科学へ」というユニークなタイトルで講演されました。

筒井 久美子 氏

阪本 貴司 氏

赤木 誉 氏

学会理事で埼玉県開業の歯科医師・亀井英志先生は、「歯科・身体総合医療」について説明し、近年「ストレス起因性口腔疾患」が増加していることから、歯科医院でストレス検査を取り入れていると話されました。
講演最後を飾るのは、東京都開業で医師・歯科医師のダブルライセンスをもつ陰山康成先生。品川メディカルモールセンターに来院された53歳女性のmRNA検査を用いたがんリスク検査の症例について詳しく報告されました。

歯科医師、医師をはじめコメディカル、企業の方、そして海外からは中国の研究者も多数参加された今大会。400名を優に超える来場者があり、川添大会長、田中昭男準備委員長以下、本学の大会準備委員が1年をかけて準備した大阪学術大会は盛会裏に幕を閉じました。

亀井 英志 氏

陰山 康成 氏

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