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大阪歯科大学

日本歯科衛生学会第17回学術大会(2022年9月18日~10月31日、Web開催)において、前回大会の学術表彰が行われ、本学大学院医療保健学研究科(博士課程)3年の川西順子さんがポスター発表賞を受賞しました。
同研究科(18年に修士課程、20年に博士課程(後期)開設)大学院生の学会学術賞受賞は初めて。

ポッピング

ポスター発表83題中、最優秀に選ばれた川西さんの演題は「口腔筋機能療法(MFT)のポッピング訓練による最大舌圧増加に関する評価」。(舌圧:舌の筋力のこと。圧力の単位はkPa(キロパスカル)。一般に舌圧は強いほど良いとされる。)この中で、川西さんは、過去に誰も研究していないためエビデンスがなく、それゆえ摂食嚥下訓練として用いられることが稀なポッピング(舌尖を切歯乳頭の後方につけ、舌全体を口蓋に吸い上げ、舌で口蓋をはじくようにポンッと音をたてる=舌打ち)訓練の効果を検討。健常成人に1日30回、4週間ポッピングをしてもらい、訓練前後に6項目の測定検査を実施しました。すると訓練後は、最大舌圧・咀嚼機能・発声機能(/pa/,/ta/,/ka/)の5項目が優位に改善。また、ポッピング訓練と「日本摂食嚥下リハビリテーション学会の訓練のまとめ」にある舌の口蓋への押し付け訓練において、訓練前後の変化量を比較したところ有意な差はみられず、ポッピング訓練は最大舌圧の向上、咀嚼機能、発声機能に有効であることを明らかにしたのです。

そもそも川西さんが今回の研究に取り組むようになったのは、新型コロナウイルス感染症がきっかけでした。調査研究がしたくて博士課程に進学したものの、コロナ禍のため研究変更を余儀なくされた川西さん。新たなテーマを思考している時、あるセミナーでの言語聴覚士の一言が脳裏に甦りました。「ポッピングはエビデンスがないから、訓練では使わないです」。歯科衛生士としての長年にわたるMFTの指導経験から、ポッピング訓練の効用を肌で感じていた川西さんは、<科学的根拠がないと医療では使われない>という現実を再認識させたこの言葉を思い出し、ポッピングをテーマとすることを決意。指導教授の元根正晴先生に相談すると、偶然にも研究に必要な測定器具がすべて先生の許に揃っていたのです(これらは元根教授が自身の研究用に収集していました)。そうして「エビデンスとなり、社会貢献となる」研究が生み出されました。

川西順子さんは1981年に大阪歯科大学歯科衛生士専門学校を卒業後、歯科衛生士の仕事に従事。50歳の時に神戸大学発達科学部(現国際人間科学部)人間行動学科健康発達論コースに社会人入学。4年間、末のお子さんと同年齢の学生たちと机を並べたのち、ライフスキル教育を研究するため同大学院修士課程に進学。
修士の学位取得後、歯磨き行動にかかわる心理社会的要因についての原著論文が掲載され、その後、本学医療保健学部の神光一郎准教授(当時)と口腔歯科保健行動とライフスキルとの関連について共同研究を実施し、口腔衛生学会誌に原著論文として掲載されました。
歯科訪問診療にも携わっている関係から、次は高齢者とライフスキルを研究しようと、さらに進学先を調べていた川西さん。本学医療保健学研究科に博士課程が開設されることを知り、早速、神先生に指導を請いますが、受持ち学生が多く、ほかの先生を探すことに。そうして現指導教授の元根先生に出会い、二人三脚の研究生活を送ってきました。最初はメンタル面でしんどい時期もあった川西さんですが、産業医でもある元根教授が精神的にもサポートし「元根先生がいたからこそ、これまで続けてこられました」。

指導教員の変更→コロナ禍による研究テーマの変更→新研究に必須の器具を元根教授がすべて所有していた→元根教授だからこそ精神的に困難な時期も支援してもらえたなど、天の配剤?と思えるような偶然(必然?)がいくつも重なって目覚ましい成果をあげた川西さんの研究。これからは歯科衛生士のみならず、他職種の方々にもポッピング訓練を介護予防やリハビリに取り入れ、より活発に活動していかれることが期待されます。

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