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大阪歯科大学

去る8月24〜26日、日本食品科学工学会第70回記念大会が京都市で開催され、本学歯学部高齢者歯科学講座の小野高裕専任教授らの研究グループが技術賞を受賞しました。
この賞は、食品科学工学の分野において実用的に高く評価される業績を上げた者、又は共同研究開発者に授与されるもので、歯学領域での表彰は稀有なことと目されています。

受賞テーマは「ヒトの摂食メカニズムを考慮した力学測定およびヒト生理計測による食品テクスチャーの評価と加工食品の製品デザイン」。同研究成果は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社と農研機構の神山かおる氏(食品研究部門)、本学の小野高裕教授、新潟大学の堀一浩准教授、湖北工業大学の西成勝好特別招聘教授の共同研究チームによって生み出されました。以下に、小野教授が開発した技術を用いて実施され、受賞対象となった研究を紹介します。

1.生理計測によるテクスチャーの評価
小野教授が大阪大学在職中に堀先生と共同で開発した、ヒトの硬口蓋(上顎)に貼り付けられる薄型の感圧センサーを用いた研究。このセンサーは摂食時、舌で押し潰す力を実測できる世界唯一のもので、従来、機器測定や官能評価によってデザインされていたテクスチャー(食感)に「生理計測」という新機軸を打ち立てました。このセンサー等を用いてヒトの摂食・嚥下挙動を解析し、食品や飲料のテクスチャーの新しい評価法が確立されました。
2.舌での押し潰しの機械的再現によるテクスチャー評価
小野教授らが上記感圧センサーによって得た口腔内の計測情報を基に、「やわらかい素材」からなる人工舌と一軸圧縮試験機を組み合わせた評価系を開発。これにより、ヒトが舌で押し潰して食べやすい食品のテクスチャー特性が調べられるようになり、高齢者向け栄養補給ゼリー等、加工食品の開発に活用されています。

幾多の受賞歴のある小野先生も「格別の喜び」と語る今回の技術賞。「歯科医師として、患者さんの口腔機能を評価し、それに基づいて治療を行い、どれだけ良くなったかを評価するのが大事。そう考え、咀嚼・嚥下機能評価法の開発に関わる研究をずっとやってきた。それが臨床の検査だけでなく、食品開発の上でも役立つと認めていただき、20年来、食品科学分野の方と一緒に研究してきた成果が評価されたというのは、とても光栄なこと」と感慨を新たにしていました。

舌が押し潰す力を測る技術のほか、医工連携による咀嚼能力測定用画像解析アプリや、産学連携による咀嚼回数計(ウェアラブルデバイス)の開発など、口腔機能を一番よく知る歯科の専門家として異分野とコラボすることで、治療とは別次元の、歯科による社会貢献の道を開拓してきた小野先生。
お父様の母校である大阪歯科大学教授に着任して半年余り。これからは、自身が開発した技術を駆使して「よく噛むことは健康にどれだけいいか」というエビデンスをさらに示していきたいといいます。
「食べられない人が食べられるように」。若き日の志は、今なお研究者・小野先生の内なる原動力になっています。

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