昨日より成長している自分かどうかを見つめ続けて
2018.6.25 歯学部 口腔病理学講座 教授
富永 和也

EPISODE002
PAST
1これまで
幼い頃から好奇心が強く、なんにでも興味を示す子どもだったという歯学部6年生の村上明希さん。彼女が歯科医師を目指し、海外へと飛び出したのには、ある出会いがあったからでした。
村上さんが歯科医師を目指すきっかけは、小学4年生の時に訪れました。歯科医院での定期健診で「たぶん大丈夫だろうけれど、一回詳しく調べてきてください」と言われ、大きな病院の口腔外科を受診しました。病院に行くことがあまりなかった上に「もしかしたらガンかもしれない」と言われて訪れたため、とても不安だったそうです。さらに「ネットで調べてみると、小学生でもなんだか怖いと分かる仰々しい言葉がズラリと並んでいて、どうしよう…と思っていました」。そんな村上さんに、口腔外科の先生方は笑顔で対応してくれたといいます。「こういう理由で、こうだから、こうなったんだよ」と筋道立ててしっかりと説明し、「とても心配したでしょう」と気遣ってくれました。「その説明が小学4年生でもすごく分かりやすくて、がちがちに固まっていた私に大丈夫よと声をかけ、とても親切にしてくださって…ああ、こんな人になりたいな、と思ったんです」。不安でいっぱいだった心が、こんなにもラクになったことは、初めてだったという村上さん。あの先生たちみたいになりたい、という思いでいろいろと調べてみると、先生は「歯医者さん」という職業の人だと分かりました。ご家族に歯科医師はいませんが、その時、目指そうと決めました。
入学してからは、歯科医療に携わるという同じ夢を目指す友人たちと共に、一生懸命に勉学に励んできました。「高校までは、なりたい職業やこれからどう進むか、みんなバラバラでした。本学の学生はほとんどが歯科医療人になることが第一目標で、目指すところが一緒。友人と話していると刺激をもらえて、私も頑張らなきゃと思うことがたくさんあります。私自身、内向的で人と話すこともあまり得意ではなかったんですが、大学では友人のおかげで少し活発になれたと思います」。
PRESENT
2今
村上さんは5年生の時、コロンビア大学の海外研修に参加しました。多くの著名人を輩出し、アイビーリーグの一つである世界有数の学府・コロンビア大学に、一度は行ってみたいと思っていたそうです。「1年生の時、理事長・学長先生との昼食会で、海外研修についてお話をお聞きしました。本学が海外研修に力を入れていること、中国やシドニー、コロンビアなど研修先の豊富さや、大学病院も見学できることなど。もし機会があるなら、一度参加してみたいなあと思いました」。そして5年時にコロンビア大学研修への参加者募集があった時は、迷わず応募しました。
「参加してみて一番大変だったことは、英語でのコミュニケーションでした」と振り返る村上さん。「その日の研修が終わった後、やっぱりもっと英語を勉強していったら良かったなとか、あの時はああいう言い方ができたんじゃないかなとか、反省することが多かったです」。それでも「もう一度言ってください」「ゆっくり言ってください」と食い下がり、ジェスチャーを使うなど、学ぶ姿勢と積極性は常に持っていました。「英語力はもちろん必要不可欠だと思います。ただ、国同士の前に人間同士のコミュニケーションなので、お互いに一致しているところはあり、それも大切だと思いました」。それは、明るさ、笑顔、丁寧さ、表情——相手を思いやり、あなたと話したいという気持ちが重要だと学びました。
5年生で研修に参加した村上さんは「国家試験なんて、まだまだ先だ」と考えていたといいます。しかしコロンビア大学で、その考えは打ち砕かれました。「現地の学生はとても勉強熱心で、論文をたくさん読んでいて、見せてもらったレポートは内容がすごくしっかりしていて…今の私にこんなことできるだろうか、と考えた時に、私ももっと頑張らなくちゃ!と、刺激をもらいました」。さらに「学生は、まるで一人前の歯科医師みたいに、自分が主体になってしっかりと診療しているんです。私が5年時の臨床実習では、次に何をするんだろう?今ってどういう状態なんだろう?ということが時々あったんですが、向こうの学生には全然なかった。積極的に熱意を持って取り組んでいました」。この体験は、国家試験に向けて勉強し、絶対に歯科医師になるという村上さんの思いを、ますます強くしました。また、これから進む道を考える機会も得られました。「研究室の話をしてもらって、これから私は臨床だけではなく、研究室に行くという選択肢もあるのかと考えました」。
FUTURE
3これから
「勉強していて一番楽しいなと思うのは、歯科麻酔です」と話す村上さん。口の中だけではなく、全身について学ぶところが興味深いといいます。「日本ではあまり麻酔を使いませんが、アメリカでは痛いのが嫌だからと最初に表面麻酔をするなど、海外研修ではそういう違いも知りました」。日本での臨床実習では、歯科が怖くて治療ができない方の『治療のお手伝いになる』というところに魅力を感じました。「怖がっていた方々も、麻酔を使って治療を終えると、ホッとして帰られるところを見て、患者さまの苦痛を和らげるというところがいいなあ、と」。自身も小学4年生の時、麻酔をかけて治療をしてもらいました。「怖い、痛いという思いを少しでも軽減できたら、快適に治療を受けられると思います」。
夢はなんですか、と尋ねると「歯科医師になることです」ときっぱりとした答えが返ってきました。小学4年生の頃から、ずっと思い描く姿があります。「患者さまに信頼され、なんでも話してもらえる歯科医師になりたい。初めて行った時に優しく接してくれた、あの先生みたいに、患者さまが安心できるような」。不安を抱いてやって来た方が、歯科医師となった村上さんの優しさと誠実さに触れ、笑顔になれる。そんな日がもうそこまで近づいています。
PROFILE
2017.12.1 歯学部 / 6年
村上 明希