12月3日、山形県立米沢興譲館高等学校2年生の寺山遥風さんら3人の高校生が大阪歯科大学楠葉キャンパスの微生物学講座を訪問し、沖永敏則主任教授から研究指導を受けました。
この訪問は、同校の関西キャリア研修の一環として実施されたものです。3人は「災害時に使用できる歯磨き粉の代用品を作りたい」と考え、口腔内の健康を保つために必要な条件や、口腔内細菌の特徴、それらを可視化する実験方法などについて知りたいと、本学ホームページを通じて自ら指導を申し込みました。
教授室に通され、少し緊張した面持ちの3人でしたが、前日に広島を訪れていたと聞いた沖永教授からの「お好み焼きは食べた?」という一言をきっかけに、場の空気は一気に和やかに。
しかし研究の話題に入ると、表情は一転します。寺山さんの「先生の論文で、口腔内微生物の多様性の変化を調べた研究を拝見しました。病原菌を減らせるというのは歯磨き粉の大事な機能と思いますが、有効な成分かどうか調べるには、どのような方法があるのでしょうか」という問いに対し、沖永教授は、まず細菌に関する基礎から丁寧にレクチャーしました。人の身体を構成する細胞の数と細菌の数、そのうち口の中に存在するもの——その「種類の多さ」が、今回のキーワードです。
「腸内細菌の多様性が崩れると、健康が損なわれてしまう。口の中も同じで、単純に悪い菌だけを退治すればいいわけではない。菌は相互に作用しながら存在しているので、全体のバランスをどう保つかが重要」。沖永教授の説明に、3人は真剣な表情で頷きながら、熱心にメモを取っていました。
近年の口腔ケア研究では、「口の中をきれいに」という考え方から、「多様性を保つ」ことへと視点が変化しています。
口腔内の多様性を保ちながら、悪い菌を群がらせない。そうした材料を見つけるのが難しい、と話す沖永教授に、3人が提案したのが山形県名産の植物「ウコギ」。食用としても利用され、トゲがあることから垣根にも使用されてきた植物です。エキスを抽出して殺菌効果を得るという先輩の研究にヒントを得、それを歯磨き粉に活用できないかと考えました。
今回の研究テーマ——災害時に使用できる歯磨き粉の代用品を作る——については、川添堯彬理事長・学長からも事前に助言がありました。
「阪神・淡路大震災や能登半島地震では、歯科団体が紙コップと歯ブラシ、歯磨き粉を提供したが、水が確保できず使用できない方が多かったという報告がある。歯磨き後にそのまま飲みこんでも人体に影響の出ないような製品があれば、災害時に大きく役立つでしょう」。
このことについて、沖永教授と3人は熱心にディスカッション。ウコギは非常に苦みが強く、歯磨き粉として使うと「口をゆすぎたくなる」ほどだといいます。そこで寺山さんから、「ガムにしてはどうか」という新たな提案が出されました。ガムを嚙むことで口周りの筋肉が鍛えられ、唾液分泌が促進されるなど、口腔フレイルの予防にも効果が期待できます。しかし、「苦いガムは食べたくないね」と、すぐに新たな課題も浮かび上がりました。
続いて一行は研究室へ移動し、歯周病菌や虫歯菌を培養した試料を実際に観察。菌の発する強いにおいに思わず声が上がる場面もあり、目に見えない細菌の存在を実感する体験となりました。
植物はそれぞれ異なる殺菌成分を持ち、その成分が作用する菌の種類も植物ごとに異なります。ウコギの効果を検証するには、唾液から口腔細菌を採取し、ウコギエキスを添加した細菌培養用培地での変化を観察するといった方法等が考えられます。「学校の先生にも(唾液を)提供してもらおうか」「タバコを吸っている人では反応が違うのかな」など、次々と疑問やアイデアが湧いてくる様子でした。
最後に、研究を行う上で必要な培養には感染リスクが伴うが、より詳しい分析には次世代シーケンサーを使用した解析が可能であること、そして、実際に口腔細菌の様子をリアルタイムに観察できる位相差顕微鏡についても説明され、沖永教授は「面白いアイデアが聞けた。研究に協力するので、いつでも連絡して」と3人を送り出しました。
研究室を後にした3人は、「失礼がないかと緊張していたけれど、先生がとても優しくて安心しました」と、ほっとした笑顔を見せていました。
今回の訪問で研究への関心はさらに深まったようで、後日早速沖永教授に実験を依頼。現在はウコギのサンプルを用いた研究を進めるべく、「粉末ではなく抽出液が望ましい」「実験には濃度などの条件設定が重要」と、沖永教授から助言を受けながら、具体的な検討が進んでいます。

